2016年2月22日
長崎地裁・被爆体験者訴訟の判決要旨
<死亡した原告の訴訟継承と地位確認請求>
被爆者健康手帳の交付を受け、被爆者援護法による援護を受けられる権利は、一身専属的なもので相続の対象にならず、地位を継承できない。訴訟は原告の死亡で終了した。手帳の交付を受けていない段階で、援護法1条3号の「原爆の投下時やその後において身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」とする地位確認を求めることは、確認の利益がなく不適法だ。
<援護法の意義と立証の程度>
援護法1条3号にいう状況は、原爆の放射能で健康被害を生じる可能性がある事情の下にあったことと解するのが相当。原告らはその事実の存在について高度の蓋然(がいぜん)性を証明することが必要だ。
<手帳の交付申請却下>
爆心地から7.5キロ以上離れた被爆未指定地域には原爆から放出された初期放射線は届いていないから、未指定地域の住民の被爆の原因はもっぱら放射性降下物からの放射線だ。未指定地域の住民は、放射性降下物による外部被ばくと、放射性降下物を呼吸や飲食などで摂取することで、内部被ばくが生じるような状況にあった事実が認められる。
外部被ばくは100ミリシーベルト以下の低線量領域の被ばくで、内部被ばくは具体的な線量が明らかではない。未指定地域の住民の内部被ばくは、それのみで健康被害が生じる可能性があるほどの内部被ばくが生じる状況を認めるに足る証拠は見当たらない。しかし、低線量の外部被ばくでも人体(健康)に対する悪影響が生じる可能性があるというのが相当で、影響の程度は被ばく線量に比例するものとされているから、被ばくした線量を具体的に推計する必要がある。
日常生活で自然放射線によって世界平均で年間2.4ミリシーベルト程度の放射線被ばくが生じ、個人の被ばく線量の典型的な幅は1〜13ミリシーベルトだ。原爆投下による年間積算線量が、2.4ミリシーベルトの10倍を超える25ミリシーベルト以上である場合には、25ミリシーベルト前後の被ばくでの健康被害の報告、研究内容に照らすと、原爆の放射線により健康被害を生じる可能性がある事情の下にあったというのが相当だ。
原爆投下当時の戸石村と矢上村の一部に居住していた原告は、原爆投下時とその後、原爆投下による年間積算線量が25ミリシーベルト以上と推計される。年間積算線量を過剰に推計している可能性はあるが、内部被ばくが生じるような状況で、内部被ばくには危険性、特殊性があり、当時の生活状況や住居では、現在よりも生活環境中に存在する放射性物質が皮膚に接触したり、体内に取り込まれたりする可能性が高かったから、援護法1条3号の「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」というのが相当だ。
長崎県知事と長崎市長がこれらの原告の手帳交付申請を却下したことは違法で取り消されるべきで、知事と市長は、手帳を交付する義務がある。健康管理手当の支給認定申請を却下した処分は違法で、これも取り消されるべきだ。
その他の原告については、知事と市長が手帳交付申請を却下した処分に違法はなく、取り消しを求める請求には理由がない。訴えは、訴訟要件を欠き、不適法だ。健康管理手当の支給認定申請を却下した処分は適法というべきだ。