1 本日,東京地方裁判所民事第38部(谷口豊裁判長・平山馨裁判官・馬場潤裁 判官)において,6名の原告(遺族原告1名を含む)全員について,国の却下処分を違法として取り消す全員勝訴の画期的判決が言い渡された。
2 判決は,放射線起因性の判断について,援護法の趣旨に立脚し,「現時点において確実であるとされている科学的な経験則では証明できないという理由のみによって,放射線線起因性を直ちに否定することには慎重であるべきである」と判示した。
また,積極認定の距離・時間には多少及ばない被爆者について原則的には積極認定対象者と同様に扱うことが要請されるとし,距離・時間に乖離がある被爆者についても,個別的な特殊事情の有無や当該疾病の発症機序等を踏まえ放射線起因性の有無を慎重に検討すべきであると判示した。
3 今回勝訴した原告6名のうち5名は,2013年 12 月 16 日に改定された新しい審査の方針(平成 25 年新方針)の積極認定に関する疾病,被爆距離ないし入市時間の基準に該当しない原告である。
そして,前立腺がんの要医療性が争点となった原告についても,定期的なフォローアップも必要な医療にあたるとして国の主張を斥けた。
4 厚労省は,全国の被爆者が原爆症認定集団訴訟に立ち上がる中で,2008 年「新しい審査の方針」を策定して積極認定の制度を導入し,国は 2009年 8 月 6 日に日本被団協代表との間で「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」を締結した。
この確認書には「訴訟の場で争う必要のないように,定期協議の場を通じて解決を図る」と明記されている。
それにもかかわらず,厚労省は, みずから策定した「新しい審査の方針」の運用を狭め,原爆症認定行政を後退させたため,被爆者はノーモア・ヒバクシャ訴訟を全国の裁判所に提訴せざるを得ない状況となった。
今回の東京地裁判決は,昨年10月29日の東京地裁民事第2部における17 名全員勝訴の判決,本年4月11日の福岡高裁判決とともに,国の後退する原爆症認定行政を痛烈に批判し,かつ司法と行政の乖離がいまだ埋められていないこ とを明確に示す内容となっている。
5 原爆症認定集団訴訟以来の司法判断の流れに沿う今回の東京地裁判決に対して,国は控訴を断念し,重い病気で苦しんでいる原告らに対する早期救済をはかり,原爆被害に対する償いをはかるべきである。
被爆71年に当たる今年5月,原爆投下国であるアメリカのオバマ大統領が広島を訪問し,「いつか証言する被爆者の声が聞けなくなる日が来るでしょう。しかし,1945年8月6日の朝の記憶は薄れさせてはなりません」と述べた。
原爆症認定問題の最終的な解決をはかるべき時は今をおいてない。
国は,これまでの認定行政を断罪した累次の司法判断を厳粛に受け止め,日本被団協の提言に沿って司法と行政の乖離を解消する,法改正による認定制度の抜本的な改善を行い, 一日も早く,高齢の被爆者を裁判から解放すべきである。
私たちは,国が,18 万余の被爆者が生きているうちに,原爆被害に対する償いを果たすことこそが,核兵器をなくすという人類のとるべき道の歩みを進めることになると信ずる。
以 上