2015年3月25日水曜日

黒い雨:「被爆者と認めて」36人が手帳申請 訴訟辞さぬ構え  /広島





黒い雨:「被爆者と認めて」36人が手帳申請 訴訟辞さぬ構え /広島

毎日新聞 2015年03月24日 地方版

被爆者と認めてほしい−−。原爆投下直後に降った黒い雨に遭った住民36人が23日、広島市役所に被爆者健康手帳を集団申請した。申請後に同市役所で記者会見した県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会のメンバーは、自身の健康被害や申請を前に亡くなった仲間への思いを語り、申請が却下された場合は司法判断に委ねる決意を語った。【加藤小夜】

この日、同協議会のメンバーや支援者ら約40人が広島市役所を訪れ、36人分の被爆者健康手帳と第1種健康診断受診者証の交付を申請。市原爆被害対策部援護課の職員が一人ずつ書類を確認しながら受けとった。
爆心地の北約17キロの旧亀山村西綾ケ谷(現安佐北区可部町綾ケ谷)で国民学校からの帰り道に黒い雨を浴びた清水博さん(77)=安佐北区=は、「びしょぬれになったから、放射能(の影響)はひどかったと思う」と振り返った。10代後半から胃の調子が悪く、40代で胃潰瘍を患った。58歳の時に胃がんが見つかり全摘出した。86キロあった体重は20キロ近く減ったという。「戦争を起こした結果、原爆が落とされた責任を国にとってほしい」と訴えた。
また、爆心地から西約9キロの自宅前で黒い雨に遭った高東征二さん(74)=佐伯区=は、肺がんで命を落とした同級生や、倦怠(けんたい)感に悩まされ続けて亡くなった男性を紹介し、「彼らのためにも、力の限り訴えたい」と語った。
同協議会の牧野一見事務局長は「広島市はできるだけ早く回答を出してほしい。却下されれば、訴訟に向けた準備を進めるだけだ」と話した。
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◇国、自主的に事実解明を

「黒い雨」の健康被害について、国が主導して実態調査をしたことはなく、体験者側に被害の立証責任を求めてきた。訴訟を視野に入れた今回の集団申請は、一連の原爆症認定訴訟で「疑わしきは認める」と積極認定を国に促してきた司法への期待がある。
現行の援護対象区域は被爆直後、気象台技師らが使命感から調査した結果に基づくが、当時の要員や資金などの事情から詳細な調査はできていない。より広範囲で雨が降った可能性が指摘され、広島市と県は2010年、区域の大幅拡大を国に求めた。その根拠となるアンケート調査は被爆から60年以上たって実施されたものだ。国側は記憶の曖昧さなどを理由に「科学的・合理的根拠がない」と退けたが、戦後の早い時期に本格的な調査をしなかったことが尾を引いている。

原爆症認定訴訟で国は敗訴を重ね、段階的に認定基準を緩和したが、その後も提訴が続き抜本的解決になったとは言い難い。高齢化した黒い雨の体験者が司法で争う時間は多くない。黒い雨は内部被ばくの問題など現代の原発被害に連なる課題をはらんでいる。司法の判断を待つだけでなく、国や科学界は事実解明に努める義務がある。
【加藤小夜】