2015年3月14日土曜日

被爆体験者 進まぬ救済、募る不満 /長崎





市政検証:’15長崎・佐世保/2 

被爆体験者 進まぬ救済、募る不満 /長崎

毎日新聞 2015年03月13日 地方版

「市長は私たちと同じ立場に立って被爆体験者問題を解消すべく努力することが本来の使命ではないか」。2月5日、被爆者5団体の代表が長崎市の田上富久市長と面会した席で、県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(75)が強い口調で迫った。

川野議長は、被爆体験者約560人が被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の原告を支援している。手帳の交付審査は、長崎市や県が国から受けた法定受託事務であり、手帳交付申請の却下処分取り消しを求めたこの訴訟では、長崎市は県や国とともに「被告」の立場となる。
「長崎(原爆)は空中核爆発であり、そもそも放射性降下物そのものが極めて少なかった」「原爆の放射性降下物による内部被ばくは無視できるレベルのもの」「(原告が被爆による急性症状と主張する下痢や脱毛は)戦時中、戦後間もない混乱期では、感染症、栄養失調、ストレスに起因すると見る他はない」。「被爆都市」である長崎市も、被告としてこうした主張を展開する。
川野議長は「どうして我々と市が、原告と被告の立場で争わなければならないのか」と、長崎市の姿勢に疑問を呈した。
被爆体験者は、長崎の爆心地から12キロ以内で原爆に遭いながら、南北に細長い国指定の被爆地域の外にいたために被爆者と認められない人たちだ。被爆者と認められると医療費の窓口負担が原則生じないほか、健康障害などに伴って手当が支給されるが、被爆体験者の医療費助成は精神疾患などに限定され、手当はない。被爆体験者精神医療受給者証所持者は、県内に6957人、うち長崎市内に5577人いる。
長崎市などが繰り返し被爆地域の拡大を要望し、国は2002年に医療費助成を開始したが、その後、市は国に被爆地域拡大を公式に要望していない。「固い扉を市長が先頭に立ってもう一回、突き破ろうという意思はないか」。市議からも解決に向け、市が積極的に動くよう求める声が上がる。
被爆者5団体との面談で、田上市長は「国との交渉の中で科学的根拠というものが必ず求められる。棒高跳びの棒のようなものがないと壁は越えられない」と話し、専門家による「原爆放射線影響研究会」を設置して国に被爆地域拡大を求めるための根拠を探している、と説明した。
しかし市側は、本田孝也・県保険医協会長を研究会委員にするようにとの被爆体験者団体の求めに応じなかった。本田氏は米マンハッタン管区原爆調査団の放射線測定データを基に、被爆地域外でも健康被害があった可能性を指摘する医師だ。研究会は13年12月の発足以降、わずか3回しか開かれていない。
被爆体験者訴訟の原告は既に55人が死亡した。毎月9日、長崎市役所前で手帳交付を訴える第1陣原告団の岩永千代子事務局長(79)は「市長は平和宣言などで、世界に高らかに『核兵器廃絶』を訴えながら、足元の私たちをなぜ救済しないのか」と語った。

【樋口岳大】

〔長崎版〕